リウに連れられツァウベルンは4階の、かつて軍議などがよく執り行われていた、広間と呼ばれていた部屋に案内された。
そこには色とりどりの珍しい反物、南国のフルーツ、開封されてもいないラッピングが施されたままの衣装ケースなど、山のような贈り物が所狭しと並べられていた。
「うわぁ、これはいったい…もの凄いね」
絨毯を埋め尽くした進物の量の多さに流石のツァウベルンも感嘆の声を禁じえない。
無造作に落ちている織物を手に取ると、上質の精巧な刺繍が織り込まれたショールだった。優秀な職人がどれだけの歳月をかけて作成したのだろうか、随分と素晴らしい作品だ。
「ティアー、お客さんだぞー!!」
リウはうず高く積まれた箱の向こうに居るであろう人物に声を掛けた。何せ荷物が多すぎて向こうが見えない。
「はーい」
いま行く、という声と共にひょっこりティアが箱の後ろから顔を出してきた。
相変わらず少年のような出で立ちだったが、以前と違うのは防具を身につけてないことと帯刀していないところだろうか。
半年振りぐらいにまみえた彼女は以前より手入れの行き届いた髪は銀糸のようにきらめき、心なしか体つきがふっくりと丸く女性らしくなったように感じる。
健康的な肌の色に、ふっくらとした桜色の唇は相変わらず愛くるしかった。
「うわぁ、ツァウベルン!久しぶりだなっ!!」
ツァウベルンが片手を挙げて挨拶すると、彼の表情を見たティアは嬉しそうに駆け寄ってきた。
「ああ、ティア君も息災の様で何よりだ」
目の前まで来たティアの手を取ると、恭しく手の甲に口付けた。その所作は貴族らしく優雅で堂の入ったもので、隣で見ていたリウもとっさの事に目をみはるしか出来なかった。
「っー!相変わらず気障だな、まったく。でもそっちも元気そうで何よりだ。しかし、急に来るから驚いたぜ。先に連絡くらいくれてもいいのに」
ティアは照れながらぱっと手を離すと、ツァウベルンに嬉しそうに再会を心から喜ぶような笑顔を返した。
「いや、サプライズは唐突な程印象に残るものだからね」
相変わらずの、彼らしい含みを含んだ喋り方。変わってないな、とティアは嬉しく思った。
人を煙に巻くような彼だが、悪い奴ではないし、何より一緒に居ると楽しくなる仲間の一人だと思っていた。
「私は君に忘れられるほど悲しい事はないと思ったから」
彼の真意は解らないが、「馬鹿だなぁ、忘れるわけないだろ」とティアは彼の胸を小突いた後、笑った。
「それにしてもこの部屋の大荷物はどうしたんだい?」
取り合えず荷物に占拠されていない、無事なソファーに座り、足元の箱のピンクのリボンをもてあそびながらツァウベルンはずっと気になっていた事を問うた。
「ありえない事に、これ全部ティアの誕生日プレゼントなんだぜ」
リウは苦笑と共に肩を竦めながら言った。
「なるほど、ティア君はいろいろな殿方に求愛されているという事だね。これは大変だ」
ツァウベルンの冗談半分の物言いに、冗談だと解っていても久しぶりに会った美丈夫に言われティアの頬にさっと朱が走る。
「ばっか、求愛なわけねーだろっ!」
ティアの照れ隠しに声をあげ、はは、とツァウベルンは笑った。
「全部俺の誕生日の祝いだってさ。なんかいろんな国のあったことも無い奴からじゃんじゃん送られてくるんだけど。何なんだいったい」
ティアクライス団は協会と戦い、協会の脅威から世界を守ったレジスタンス、という評価を得ていた。それゆえ、団長であったティアは女ながら世界を守った戦女神の伝説のように人々に語られている。
もちろん、海を隔てたライテルシルトにまで彼女の評判は届いていた。半ば偶像のような噂は、得てして的外れのような事も多く、実情を知っていたツァウベルンは噂話をを聞いて一人ほくそ笑んだりもしていたが。
それゆえ、どこの世界にも属していない、独立系の自治組織であったティアクライス団を取り込もうという圧力は大きい。
それにティアが絶世の美姫だという噂も随分流れているようだった。
可愛いとは思うが、美姫、という感じではないだろう。まだまだ青い、熟す前の少女には違いないが。
「それだけティア君の功績が世界に評価されている、ということだよ」
貢物で取り入ることができるならば安いものだ、と考える組織がなんと多い事か。浅ましい。
「まあ、貰っちゃったもんにはお礼くらいしないといけないので、今ティアにはお礼状かかせてるんですよ。礼儀知らずだと思って舐められても困るしね!」
リウの計らいにより、ティアは一日そんなことばかりやっている!と愚痴を零す。
「ふふ、そういうのがリーダーの務めというものだよ。尤も私もそういう事務作業が一番嫌いなんだ、私たちは随分と気が合うな」
「別に俺がやんなくてもいいのになー。まあ、物貰うのはありがたいと思うけどさぁ…」
ティアはおもむろにじゃらじゃらと装飾過多な宝石がたくさんついた首飾りを箱から取り出す。
「まったく、こんなの俺に似合うわけ無いのにな!」
呆れ顔でもったいねぇ、と言う。
「今の君にはまだ早いけど、きっとそのうち美しく成長する君には似合うと思うけれどね」
そう言うとツァウベルンはティアの手から首飾りを取り、そっとそれを彼女の首に回し当てた。
「…んー。あまりこの色は君には合わないな。宝石が主張しすぎる。君にはもっと、君が引き立つようなものが似合うと思うよ。私が今度見立ててあげるから、それで着飾った君とデートしよう」
言われ慣れない直球の賛辞にティアの頬がほんのりばら色に染まった。
「お前…っ、馬鹿!人をからかうな!!」
「照れるところもとても可愛いじゃないか」
まんざらでもなさそうなティアの様子を見て、ツァウベルンの目は生き生きと輝いていた。
そして、じゃれる二人を見てリウはやれやれ、と大きいため息をついた。
「これは、まずいぞ…。また1人増えた…」