愛おしいのは君だけ(リウ主)

 


付き合ってるんだよな、俺たち」
 唐突に発せられたシグの言葉にリウは目を見開いた後、大げさにはぁ、と嘆息した。
 二人は城のシグの自室にいた。
 すっかり定位置になった場所に、リウは椅子に、シグはベッドにそれぞれ腰掛け、互いにぱらぱらと打ち合わせに関する資料を眺めていた。
 それは、1週間前のあの日と全く同じシチュエーションだった。
――やっと、今までの幼なじみの関係に終止符を打ったばかりなのに。

 



「俺、本当にシグの事好きなんだけど」
「ああ、俺もリウのこと好きだぜ」
 椅子に座り机に向っていたリウがいつの間にかシグの前に立っていて、唐突に彼は言った。
 そして、さらりと何時もの調子でシグは返答した。何当たり前のこといってるんだという調子で。
「…例えば、ジェイルやロベルトが同じこと言ってもお前は同じように好きだって言うのか?」
 リウのやけに真剣な表情に気圧されながらもシグは ああ、と素直に返答した。
 好きか嫌いかと問われれば、勿論前者だと答えるだろう。
 その言葉にリウは大きく息を吐いた。
「シグはそう言うと思ったけど、やっぱそうなんだよな。俺の好きは、恋愛対象としてシグの事好きなんだけど、シグは?」
 気がついたら目の前にリウの自分より少し大人びた顔があって、何故かシグは緊張した。
「レン、アイって…」
 はっきり言って同性であるリウをそういう目で見たことなんてなく、いきなりの彼の発言にシグはどぎまぎして思考が追いつかない。
 だが、彼の目を見ていると思わずこくり、と頷いてしまった。リウの眼差しは真剣そのもので、逃げられない、と本能的に思った。そう、例えるなら捕食されそうな動物の心境で。


「シグ、えっとそれはオッケーに取っていいって事だよな」
 またシグは条件反射のようにこくり、と頷いた。
 理由は、彼自身もわからなかったが。

「っ、よかったぁー!」
 リウはふにゃり、と緊張にこわばった顔を緩めるとそのままシグの背中に腕を回し緩く抱き締めた。
「ありがと、シグ。これからその、幼なじみじゃなくて恋人ってことで宜しく…」
 あのシグが!みんなにもてるシグが自分の腕の中に嫌がりもせずすっぽりと治まってくれている。髪の毛からは太陽の匂いがし、肌の体温は自分より暖かく心地いい。
 リウは幸福感に天にも昇る気持ちだった。


--と、めでたく合意の上、交際をスタートすることになったのにこの様だ。
「俺はシグと付き合ってるつもりだけどシグは違うのか?」
 腰掛けていた椅子から立ち上がると、リウはシグと同じように並んでベッドに腰かけると改めて問うた。
 シグはリウと視線を一瞬交わした後、ばつが悪そうに反対側に視線を向けた。
「わかんねぇんだよ、付き合うとどう違うのか。別にリウのことが嫌いってるわけじゃねぇし。なんか、実感わかねぇっていうか…」
 リウはシグが何でいきなりそんな事を言い出したか検討もつかなかった。
 だけど、真剣に告白したのに、そういう事を言われるといくら温厚な自分でも腹がたつ。
 ただ俺ほどじゃないにしろ、好意を持ってくれていると思っていたのに。


「……シグ」
 リウが彼の名をいつもより一段低い声で呼んだかと思うと、シグは、あ、というまに一瞬で寝台に押し倒されていた。

 そして噛みつくように荒々しく唇を奪われる。
「…っ、んっ……」
 それは付き合って初めてのキスだった。
リ ウは覆いかぶさると角度を幾度も変えてシグに深く口付ける。
 折角、シグを大事にしようと思って、そういうことはしたいのは山々だけど焦らずゆっくり段階を進もうと決意して守っていたのに。
 あんまりの発言に、リウの堪忍袋の尾が寸断され。そして本能に忠実になってやる、と思ってしまった。
 突然の事にシグの身体は強張り、押し返そうとしても力が入らない。
 リウはシグの頤に手を添えると、無理やり少し桜色の唇を開かす。そして、隙を狙いさらに深く口付けた。
 シグの舌に己のそれを絡ませたり、歯列をいやらしくなぞったり。
 キスだけなのにいやらしい水音が響き、聴覚から狂わせる。
「っ、やめっ……」
 一瞬唇が離れると、シグは静止を求める声を上げた。
 ありえない。いきなりこんなキスされるなんて。
「…やめるわけ、ないじゃん」
「ばかっ…リ、んっ…」
 リウ、と言おうとした瞬間言葉はまたリウの唇に封じ込められくぐもった声しか出てこず。
 舌と唾液が混ざり合うたび、くちゅ、くちゅりと官能に訴えかける音が響く。
 シグは挨拶とは違う、初めての深い口付けに呼吸困難を起こしかけ、酸欠で頭がくらくらしてきた。
「…んっ……」
 やっと、長いキスから開放されると甘えたような声が無意識に口をついてしまう。
シグの目はとろんと潤み、唇は唾液に濡れあかく濡れそぼっていた。
 リウの下半身にそれはダイレクトにずくんと響き、下っ腹が痛くなる。
 リウはぎゅ、とシグを強く抱きなおすと耳元で囁いた。
「なぁ、付き合うってこーゆーコトするって知ってた?俺はシグにずっとこうしたかったんだけど」
 耳朶にリウの息かがり、くすぐったさに背筋がむずむずとし変な声がでそうになる。
 そして、シグは太ももに感じる熱に、ぎょっと目を見開いた。
 押し付けられた熱いそれはつまり、男性のそれで……。
 理解したとたんにシグの頬が真っ赤に染まる。
「リウ…」
「俺はシグがずっと前から好きで、お前の心も身体も全部欲しいんだ。欲張りなんだ」
 リウの熱を帯びた囁きに、鼓膜が甘く痺れる感触をシグは味わった。
 性的に求められる事が解り、そういうことに疎いシグはただただ赤面してしまう。
 まさか、自分がリウにそんな気持ちを持たれているなんて。
 付きあう、と言った時、なんとなく承諾したなんていまさら言えない。
 1週間立っても何も関係に変化が無かったから聞いてみたが、まさかこんな怒涛の展開になるなんて思わなかった。
 自分を押し倒す男、リウを見上げると彼と視線が睦み合う。
 翡翠の目が何時もより官能の為か色濃く鮮やかで、堪らない気分になり思わずシグは目をとじてしまった。
 色気があって、大人の男にリウが見えてしまう。
「シグ、俺を見て…」
 そっと息が掛かる距離でリウが囁く。

 ゆるり、と細く瞼を開けると、ちゅ、と額にキスが落とされた。
「やばい……」
 ぽつり、とシグはそう零した。

 付きあうって、そういう事か。やばい、目を見たら最後、逃げられない。
 恥ずかしすぎて、口から心臓が飛び出そうなくらい鼓動がばくばくした。
 再びのキス。心臓ごと食べられそう、とシグは覆いかぶさる体温に埋もれながら思った。でも、リウに捕食されるのも、悪くないのかもしれない。

 


 マリカに後日、付き合うってなに、どういうことだと思う、ってシグは聞いてみた。
「付き合う?交際するってことよね。そうね……好きな人と仲良くする…まぁ、つまりらラブラブするって事よ〜。手を繋いだり〜、デートしたりとか〜…」
 女に何言わせるの、と逆にばし、と背中を叩かれた。痛すぎる。
 嬉々として話してるくせに、とは言わないでいたほうが賢明だろうとシグは思った。


 リウめ…仲良くするにしても、初っ端から仲良くしすぎだろう!!
 一人シグはもやもやした気持ちを抱えて、心の中で強引なリウを罵った。