きみにキスする為うまれてきた(ロベ主)

 繰り返す、ループする日々。
 幸せな日の繰り返し。
 朝、目覚めると眠るあいつの横顔があって、俺は起こさないようにそっとキスを落とす。
 そして、あいつは頬に添えた手に、甘えるように擦り寄ってくる。
 一日ずっと独り占め、ずっと一緒だった。
 すごく幸せな、怖いくらいに幸せな日々だった。
 だから、現実じゃないってわかった。


 明日、最後の戦いに行くためにサイナスに再び乗り込む。
 各人思い思いに過ごし、夜はあっという間に更けてゆく。 夜が明けると戦闘が控えているため、早く休むのが賢明と考えるのが普通だろう。
 だが、リーダーであるシグは自室のバルコニーから一人夜空を見上げていた。
 ノックをしても応答が無かったので、ロベルトは入るぞ、と一言断ってから彼の自室に踏み入れた。
 そしてバルコニーに一人で立ち、空を見上げる彼を見る。 月明かりの照明は、シグの横顔を神秘的に照らし出していた。
  「シグ、眠れないのか?」
 ロベルトが傍に来たことに声を掛けられて初めて気づいたのか、はっと驚いた表情を浮かべシグは彼に向き直った。
「なんだ、ロベルトかぁ。びっくりした。お前こそ寝れないのか?」
 シグは先ほどの表情とはうって変わり、何時もの快活な表情を見せた。
「そんなとこだな。いや、気持ちが昂ぶるというかなんというか…」
 明日は戦だし、その言葉に間違いは無かった。
「大丈夫だって、俺たちは必ず勝つ」
 強い意志のこもった言葉。
 何時もシグの言葉には力がある、と感じる。
 だから、この城の連中も彼の言葉を信じ、ここまで行動を共にしてきたのだろう。
 だが、彼をずっと見てきた自分には解ってしまった。
  彼の表情が、少し強張ってしまっていることに。
「シグ、お前は皆を率いる存在で、団の皆がお前のことを頼りにしているし大事に思っている。だが… それがお前の重荷になっているんじゃないか」
 ロベルトを見つめるシグの眼差しがぐらりと揺れる。
「重荷、か…」
 がむしゃらに自分の思うままここまでやってきて、気付いた時には一大勢力を率いる者になってしまっていた。
 自分はただのシトロ村で育った普通の子供で、偶然が重なり英雄扱いで祭り上げられ。
 ずっと、村を出てから走り続けてきた。
 立ち止まったら、足元が不安でぐらりと揺れてしまいそうだった。
「俺は決して強くも立派でもないんだ。俺だって恐ろしいさ!だけどな、やらなきゃいけねぇんだ!そういう事言われると、考えちまうだろう」
 視線を合わすのを躊躇するように、シグは俯いたままロベルトに偽らざる本音を零した。
「シグ…」
「皆が命張って戦ってくれるんだ、俺がびびってちゃ示しつかねぇだろ…」
 彼はそういうとぐっと己の拳を握りこんだ。
 それは必死に己を、弱い自分を鼓舞するかのように。
「シグ、俺はお前を失いたくない。だから戦うんだ」
 ロベルトはシグの握った拳をそっと己の手で包み込んだ。
「俺が、絶対お前を守る」
 握ったシグの手は小刻みに震えていた。
「俺の隣には、お前が必要なんだ」
 ロベルトは、まっすぐにシグの目を見て、偽らざる己の気持ちを告げた。
 明日自分はシグを守るために、命を掛ける。
 それに比べれば彼に思いを告げることくらいなんでもない、ということに今更気づいてしまったから。
「お前が好きで、俺はお前を守りたいんだ」
 ロベルトはシグの背中に腕を回し、彼をぎゅっと己の胸に抱きこんだ。
 この温もりを、もっともっと感じたい。これからも。
「ロ、ロベルト…」
 シグはロベルトの予想外の告白に目を見張った。
 まったく彼が自分に思いを寄せてくれているなんて、考えたことなんてなかった。
 彼に抱きしめられ、初めて彼の体温を感じた。
 心臓の脈打つ鼓動が、自分にも伝わってくるし、背中に回された手は温かかった。
 理屈じゃない。
「俺も、お前が大切だし、お前を守りたい…」
 抱きしめられた体制のまま顔を上げると、二人の視線が交わりあう。
 こんな時、言葉よりも眼差しは雄弁で。
 そして、そのまま吸い寄せられるように唇が重なる。
 キスする少し前に見た、ロベルトのブルーアイはとても綺麗だった。
 言葉にしなくても、解ってしまったんだ。
 自分も、彼と同じ気持ちなんだと。
 触れるだけの長いキス。唇が離れ目が合うとお互い顔が真っ赤だった。
 もう、ただの友人で無くなった。
「シグ、もう一度…」
 再び目があうと、熱っぽくロベルトはそう囁いた。
 初めて触れた彼の唇の熱はとても甘美で自分を誘惑してくる。
 ロベルトの言葉にシグは照れながらも、もう一度素直に睫を伏せる。
 恥ずかしいから言葉で言えないけど、キスがこんなに嬉しいことだなんて知らなかった。
 彼と共に、俺はループじゃない幸せな時間を掴み取る。
 このキスはその第一歩に過ぎないんだ。